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第3回「内部の強みを磨く:バリューチェーン分析」

はじめに

企業が持続的な競争優位を確立し、成長し続けるためには、外部環境だけでなく、内部のリソースやプロセスをしっかりと理解し、最適化することが重要です。この内部分析の方法の一つが、「バリューチェーン分析」です。

バリューチェーン分析は、企業がどのように価値を生み出し、提供しているのかを体系的に理解するためのフレームワークであり、各活動がどのように企業の競争力に貢献しているかを明確にします。今回は、バリューチェーン分析の基本的な概念と、その実施方法を詳しく見ていきましょう。

バリューチェーン分析とは?

バリューチェーンとは、企業が製品やサービスを市場に提供するまでの一連の活動を指します。この概念を広めたのは、戦略論の第一人者であるマイケル・ポーターです。彼は企業活動を「主活動」と「支援活動」に分け、それぞれが付加価値を生むプロセスであると考えました。この活動の連鎖が「バリューチェーン(価値連鎖)」と呼ばれるのです。

バリューチェーン分析の目的は、各活動がどのように価値を創造しているのか、あるいは無駄を生んでいるのかを評価し、企業全体のパフォーマンスを向上させるための最適化を図ることです。

主活動と支援活動

バリューチェーンは、以下のように「主活動」と「支援活動」に分けられます。

  1. 主活動(Primary Activities)
    企業が顧客に直接的な価値を提供する活動です。具体的には、以下の5つの活動が含まれます。

    • インバウンドロジスティクス:原材料や部品の受け入れ、保管、管理を指します。サプライチェーンの効率化がここで重要です。
    • オペレーション(製造):原材料を製品に変換するプロセスです。効率的な生産システムやコスト削減が競争力の源となります。
    • アウトバウンドロジスティクス:製品の出荷、配送、流通に関連する活動です。迅速かつ安全な配送が、顧客満足度に影響します。
    • マーケティングと販売:製品やサービスを市場に広め、顧客に販売する活動です。マーケティング戦略や営業力が問われます。
    • サービス:顧客サポートやアフターサービスを提供する活動です。リピーターの獲得や、製品の価値向上に直結します。
  2. 支援活動(Support Activities)
    主活動を支援し、企業の全体的なパフォーマンスを高めるための活動です。以下の4つが支援活動に含まれます。

    • 調達:原材料やサービスの購買活動です。コスト効率やサプライヤーとの関係が重要です。
    • 技術開発:製品やサービスのイノベーションを推進する活動です。技術力の向上は競争優位の要です。
    • 人事管理:従業員の採用、育成、評価、報酬などの活動です。優秀な人材の確保と育成が企業の成功に直結します。
    • インフラストラクチャー:経営管理、財務、人事、法務など、企業の全体を支える活動です。強固な経営基盤が戦略実行の土台となります。

これらの活動は相互に関連し合い、一部が効率的に機能することで他の活動も強化され、最終的に企業の競争力が高まります。

バリューチェーン分析の実施手順

次に、実際にバリューチェーン分析をどのように実施するのか、その手順を見ていきます。

 

  1. 企業活動のマッピング
    まず、企業の全活動をバリューチェーンの主活動と支援活動に分けてマッピングします。これは、企業がどのようなプロセスを経て価値を創造しているかを視覚的に把握するための第一歩です。

  2. 各活動の価値評価
    次に、各活動がどれだけの価値を生み出しているのかを評価します。具体的には、以下のようなポイントに注目します。

    • コスト削減に寄与しているか
    • 顧客に対する差別化を生み出しているか
    • 競争優位に貢献しているか
  3. 無駄やボトルネックの特定
    各活動の分析を通じて、価値を十分に生み出していない活動や、効率が悪いプロセスを特定します。例えば、インバウンドロジスティクスで在庫管理が不十分であれば、コストが増加し、顧客に対して価値を提供できないリスクがあります。

  4. 改善策の立案
    無駄やボトルネックが特定された後は、それを解消するための改善策を立案します。例えば、製造工程における自動化技術の導入や、サプライチェーンの見直しなどが考えられます。

  5. 競争優位の強化
    最後に、バリューチェーン全体を通じて競争優位を強化するための戦略を策定します。これは、企業が独自の価値を生み出し、他社との差別化を図るための重要なステップです。

バリューチェーン分析の実例

バリューチェーン分析の理解を深めるために、具体的な企業の事例を見てみましょう。

例えば、家電製品を製造する企業の場合、インバウンドロジスティクスでは、部品のサプライチェーン管理が重要です。適切なタイミングで高品質な部品を確保することで、製品の信頼性が高まります。

次に、製造(オペレーション)においては、効率的な生産ラインの構築がコスト削減につながります。この企業では、自動化技術を導入し、人的ミスを減らすことで、生産効率を向上させました。

さらに、アウトバウンドロジスティクスでは、製品の配送を迅速化するために、地元の配送業者と連携し、エンドユーザーに迅速かつ正確に商品を届ける体制を整えています。

マーケティングと販売活動では、SNSやオンライン広告を活用し、ターゲット顧客に直接リーチするデジタルマーケティング戦略を採用しています。これにより、ブランド認知度が向上し、売上が増加しました。

 

サービス活動においては、製品の保証期間を延長し、顧客サポートを充実させることで、顧客の信頼を得ています。これにより、リピーターの増加と、口コミによる新規顧客の獲得が実現しました。

競争優位の創出

バリューチェーン分析を通じて、企業は自身の強みと弱みを理解し、競争優位を創出するための戦略を策定することができます。特に、主活動と支援活動の連携を最適化することで、他社には真似できない独自の価値を提供することが可能です。

例えば、技術開発と製造活動が連携することで、製品の差別化が実現し、市場での競争力が向上します。また、顧客サービスとマーケティングが連携することで、顧客満足度が高まり、ブランドの信頼性が向上します。

まとめ

バリューチェーン分析は、企業の内部プロセスを最適化し、競争優位を強化するための強力なツールです。企業が持つリソースを最大限に活用し、価値を生み出すプロセスを理解することで、持続的な成長と競争力の維持が可能となります。

今後、あなたの企業でもバリューチェーン分析を活用し、内部の強みを磨き上げ、競争の中で優位に立つための戦略を立案していきましょう。